服だけでなく、バッグ、タオル、カーテン、家具、雑貨など、さまざまなものに使われる天然素材「コットン」。
日本語では綿とも呼ばれ、木綿から採れる繊維のことを指します。
ちなみに「真綿」というものもありますが、こちらはシルクなのでまったく別物。
インドでは紀元前2500年前くらいから使われていたという説もあり、歴史が古い繊維ではありますが、日本で衣料素材として定着したのは1600年頃と言われています。(諸説あり)
しかし、白くてフワフワしたやつが木になっているのを駅のコンコースに出店しているお洒落な花屋とかで見たことはあるが、あの後から取って付けたようなフワフワは何なのでしょうか。
花にしては妙な形だし、実だとしたら全然美味しそうじゃない。むしろYouTuberが画材屋さんとかで材料集めて想像上の花を作ってみた、というような、若干の偽物感を感じるのは私だけでしょうか。
気になるのでちょっと調べてみました。
コットンとは
アオイ科ワタ属の植物で、日本では木綿とも呼ばれています。
ちなみに南国でお出迎えしてくれるハイビスカスもアオイ科なので、仲間です。
花が咲いた後、子房(めしべの一部分)が膨らんで果実になり、それが乾燥して破裂します。そうすると中から種子と綿のフワフワが飛び出してきます。
つまり、フワフワは果実を弾けさせて種子をばらまくために一役買っているんですね。生命すごい。
この繊維を集めて、いわゆるコットンという素材が作られるわけですが、種からも綿実油(めんじつゆ)という食用油が作られます。ツナ缶の油などにも使われているそうなので、気づかないうちに食べているかもしれません。
ちなみに、この油の搾りかすには有毒なゴシポールという成分が含まれているのですが、中国では経口避妊薬として使われているそうです。
余す所がありませんな、コットン。
長所と短所
コットンを服の素材として使った場合の、主なメリットとデメリットは下記のようなものがあります。
長所
- 吸水性、吸湿性が良い
- 水に強い
- 肌触りが良い
- 染色や加工がしやすい
- 環境への負荷が少ない(オーガニックコットンに限る)
吸湿性が良いので蒸れにくく、肌触りが良いので、素肌に着るのに適しています。
染色や加工がしやすいので、様々な用途があるのもの特徴です。
デニムや帆布のような重量感がある生地から、ニットやガーゼのように薄くて軽いものまで作れます。
短所
- 洗うと縮む
- 毛羽立つ
- 黄ばみやすい
- やや乾きにくい
コットンは洗濯にも強く、洗えば洗うほど柔らかくなりますが、縮みやすいのも特徴です。
また繊維が細いため、使っていくうちに毛羽立ってきたり、毛玉になったりします。
吸水性が高い反面、やや乾きにくく、匂いがつきやすいのもデメリットですね。
コットンが抱える問題
コットンが製品化され、世に出る過程では多くの問題を抱えています。
- 大量の農薬を使用する
木綿畑は世界の全耕作地の2%程度にもかかわらず、殺虫剤の使用量は全体の約15%、農薬全体でも約7%を占めています。(2008年時点)
先進国では生産効率を上げるために、枯葉剤を使うことが一般的となっています。綿花に葉が混じるのを防ぎ、雨やヒョウで綿花が落ちる前に収穫したいため、葉が枯れるのを待たずにタイミングを見計って枯葉剤を撒き、葉をなくして多くの綿花を収穫するという方法です。
農薬の使用は生産者の皮膚や呼吸器にダメージを与えます。
また、土壌にいる微生物にも影響をあたえるため、土地が痩せます。土地が痩せれば収穫量が減るから化学肥料や農薬に頼らざるをえなくなるという悪循環が起こります。
食べるものではないのにオーガニックであることが注目される理由もここにあります。
近年ではこれらの問題も注目されるようになり、積極的にオーガニックコットンを扱うブランドも多くなってきましたが、まだまだ普及しているとは言い難い状況です。
- 大量の水を消費する
国連が2018年に発表した声明では「アパレル産業は、全産業で2番目に多く水を消費しており、世界の排水量の20%を占める業界」「ジーンズを1本分の綿を生産するには1万リットル以上の水が必要となる」とし、業界全体における取り組みを求めています。
ちなみに1万リットルは、1人が必要とする水10年分に相当するため、大規模な灌漑によって、生きるために必要な水が届かなくなる可能が危惧されています。
- 自給率がほぼ0%
実は綿花は、江戸時代には自給率100%だったとも言われていますが、近代化が進んで輸入できるようになると価格が安い海外産が使われるようになり、現在の自給率はほぼ0%、ほぼ全てを輸入に頼っています。
安価なことには理由があります。
大量の農薬を使用したり大規模な灌漑を行ったりすることよってもたらされた、いわば生産者やその土壌が犠牲になっているために安価で供給できるのであり、その価格が正しいとは限りません。
また、他の土地の土壌や水を大量に使用して栽培されたものを他の土地で消費するということは自然環境のバランスを崩すだけでなく、輸送エネルギーのロスも発生します。
この現状を改善しようと、全国各地で「和棉」を育てる動きがあります。
塩に強いので、東北では津波の影響で使えなくなった農地でコットンを育てるというプロジェクトも発足しています。
自給率や地産地消という考え方は食物の分野で多く使われていますが、今後は全ての原材料において取り入れるべきではないでしょうか。
服の素材として考える
コットンは天然繊維ならではの優れた吸湿性と肌触りの良さがあり、水に強いので洗濯もガンガンできるので、普段使いするのにとても適した素材です。
肌に優しいので、皮膚が敏感な人にとっては必需品でもあります。
丈夫さを求めればギャバジンや帆布のような生地も作れるし、高密度に織って多少の防水性を持たせることもできるので、軽衣料から重衣料まで幅広く使える素材でもあります。
吸水性が高いのでタオルやウエスとしても重宝されるだけでなく、オイルやワックスを染み込ませて防水性をさらに高めるという加工にも適しています。
性能は申し分ない一方で、その生産過程では農薬や水といった大きな問題も抱えています。
オーガニックコットンであれば生産者や環境への負荷を減らすことができますが、手間がかかるため生産者や生産量が少なく、価格も高いため、価格競争が激しいアパレル業界ではまだ採用が進んでいないのが現状です。
人や土に悪影響を与えることなく、将来も続けられる農法で需要を満たすことは、私たちの服を考える上で、大きな課題となっています。
全ての問題を解決できれば理想ですが、一気に解決することは現実的に難しいので、まずは、考えて選択をすることが大事なのではないかと考えています。
服を買うとき、作るときに、その素材の成り立ちや生産背景、そして捨てるときのことまで考える。
服は生活に欠かせないものですが、巨大市場の中で流行を作り、売っていくという業界の仕組みがあります。この仕組み自体が経済の一端を担っているので一概に悪いとは言えませんが、ときに倫理より経済が優先されてしまうのも現実です。
その中で地球環境にとって適切なものが普及し、生き残っていくためには、私たち消費者が適切なものを選び、支援していくことしかないのではないでしょうか。